「ねぇ、悠真。そろそろマイホーム、考えない？」
夕飯の支度中、エプロン姿の彩乃が夫に話しかける。悠真はリビングで娘の芽衣と積み木遊びに夢中だ。
「マイホームか…確かに芽衣も大きくなってきたし、そろそろ考え時かもな」
悠真は積み木をそっと置き、彩乃の方を向いた。3歳の芽衣は、マイホームの意味も分からず、積み木を高く積み上げることに集中している。
「でも、ローンとか不安だし…それに、私たちの収入で買える家なんてあるのかな…」
彩乃は不安げな表情を見せる。
「大丈夫だよ、彩乃。一緒に調べて、ゆっくり考えよう。それに、俺たちも共働きだし、なんとかなるって」
悠真は彩乃の手を握り、優しく微笑んだ。その笑顔に、彩乃は少しだけ安心する。
週末、二人は住宅展示場を訪れた。モデルハウスの広々としたリビングや、最新の設備に、芽衣は目を輝かせている。
「わぁ！このお家、すごーい！ここで暮らしたい！」
芽衣の無邪気な言葉に、二人は顔を見合わせて笑った。
「でも、こんな立派な家は無理よね…」
彩乃は現実的な問題を口にする。
「そうだね…でも、諦めるのはまだ早いよ。まずは、私たちの予算でどんな家が買えるか、調べてみよう」
悠真はスマホを取り出し、住宅情報サイトを開いた。
「見て、彩乃！この中古物件、リノベーションすれば私たち好みにできるみたいだよ」
悠真が画面を見せると、彩乃は興味津々で覗き込む。
「本当だ！これなら、私たちでも手が届きそう…それに、自分たちで内装を決められるなんて、ワクワクするね！」
彩乃の目は希望に満ちていた。
数日後、二人はリノベーション済みの中古物件を見学に行った。リビングは明るく開放的で、キッチンは使いやすそうな最新設備が揃っている。
「ここなら、芽衣も楽しく過ごせそうね」
彩乃は満足そうに微笑む。
「そうだね。それに、この家は駅からも近いし、保育園や小学校も近くにある。子育てにも便利だよ」
悠真も物件を気に入り、購入意欲が高まってきた。
「悠真、私たち、ここに決めよう！」
彩乃は目を輝かせ、悠真を見つめる。
「うん、そうしよう！芽衣、新しいお家で一緒に暮らそうね」
悠真は芽衣を抱きしめ、幸せをかみしめた。
マイホーム購入は、決して簡単な道のりではない。しかし、家族の未来のために、二人は力を合わせて乗り越えていく決意を固めた。
「これからローン返済とか大変だけど、頑張ろうね、悠真」
「ああ、一緒に頑張ろう。きっと、この家は私たち家族にとって、最高の宝物になるよ」
二人は手を取り合い、未来への希望を胸に、新たな一歩を踏み出した。
数日後、二人は不動産会社で契約手続きを進めていた。しかし、そこで予想外の事実が発覚した。
「あの…実は、この物件、以前水害の被害に遭っていまして…」
担当者の言葉に、二人は凍りついた。
「水害…？そんなこと、聞いていませんでしたが…」
悠真は驚きを隠せない。
「申し訳ございません。重要事項説明で触れるべきでしたが、私の説明不足でした」
担当者は深々と頭を下げた。
「ちょっと待って…水害って、どれくらいの被害だったんですか？」
彩乃は不安そうに尋ねる。
「床上浸水までは至らなかったのですが、床下浸水があり、一部の床材や壁材を交換しました。現在は問題ありませんが…」
担当者の説明を聞き、二人は顔を見合わせた。
「悠真…どうしよう…」
彩乃は不安げな表情で夫を見つめる。
「うーん…水害の履歴がある家は、 resale value が下がるって聞くしなぁ…」
悠真も頭を抱えた。
「それに、芽衣が小さいから、健康面も心配だし…」
彩乃は芽衣のことを考えると、心が痛んだ。
「そうですね…お子様のこと考えると、慎重になるのも当然だと思います」
担当者は二人の気持ちを理解し、言葉をかけた。
「あの…私たち、もう少し考えさせてください」
悠真は申し訳なさそうに頭を下げた。
「もちろんです。ごゆっくりご検討ください」
担当者は笑顔で答えたが、二人の心は重かった。
帰り道、二人は無言で歩いた。芽衣はベビーカーの中で眠っている。
「悠真…やっぱり、あの家は諦めた方がいいのかな…」
彩乃は沈んだ声で呟いた。
「そうだね…水害のリスクを考えると、芽衣の安全を優先すべきだと思う」
悠真も苦渋の決断を下した。
「でも、せっかくいい物件だと思ったのに…」
彩乃は悔しそうな表情を見せた。
「仕方ないよ…これも、何かの縁だと思って、また一から探そう」
悠真は彩乃の肩を抱き寄せ、励ました。
「うん…そうね。きっと、私たち家族にぴったりの家が見つかるわ」
彩乃は涙を拭い、前を向いた。
家探しは振り出しに戻ったが、二人の絆はより一層深まった。そして、新たな希望を胸に、再び家探しを始める決意をした。
「よし！また一緒に頑張ろう、彩乃！」
「うん！今度は絶対に、安心して暮らせる家を見つけようね！」
二人は希望を胸に、住まい探しを継続する。
数日後、二人は気分転換に近所を散歩していた。芽衣はベビーカーの中で楽しそうに外の景色を眺めている。
「悠真、見て！あそこの家、素敵じゃない？」
彩乃が指さす先には、可愛らしいレンガ造りの一軒家があった。庭には色とりどりの花が咲き乱れ、まるで絵本から飛び出してきたようだ。
「本当だ！可愛い家だね。それに、売り出し中みたいだよ」
悠真は家の前に立てられた看板を見て、目を輝かせた。
「ちょっと、見てみようよ！」
彩乃はワクワクした様子で、悠真の手を引いて玄関に向かった。
「こんにちは。内覧希望なのですが…」
悠真がインターホンを押すと、中から優しい声が聞こえた。
「はい、どうぞ。お待ちしておりました」
出てきたのは、白髪の穏やかな老婦人だった。
「どうぞ、ごゆっくりご覧ください」
老婦人に案内され、二人は家の中に入った。リビングは吹き抜けで明るく、木の温もりが感じられる。キッチンは使い勝手が良さそうで、収納もたっぷりある。
「わぁ…素敵なお家ですね」
彩乃は感動した様子で、部屋を見渡した。
「ありがとうございます。主人がこだわって建てた家なんです」
老婦人は優しい笑顔で答えた。
「ご主人は…」
悠真が尋ねると、老婦人の表情が少し曇った。
「主人は数年前に他界しました。子供たちも独立して、私一人ではこの広い家は持て余してしまうので…」
老婦人は寂しそうに言葉を続けた。
「そうだったんですね…」
彩乃は老婦人の気持ちを察し、そっと手を握った。
「この家は、私たち家族が大切に受け継ぎます」
悠真は力強く宣言した。
「本当ですか…？」
老婦人の目に涙が浮かんだ。
「はい。この家は、私たち家族にとって、最高の宝物になるはずです」
彩乃も笑顔で頷いた。
「ありがとうございます…本当に、ありがとうございます…」
老婦人は二人の手を握りしめ、感謝の言葉を繰り返した。
数週間後、二人は無事に契約を済ませ、新しい家に引っ越した。芽衣は広い庭を元気に走り回り、新しい家で幸せそうに過ごしている。
「悠真、この家を見つけてくれてありがとう」
彩乃は夕飯の支度をしながら、悠真に感謝の言葉を伝えた。
「いや、彩乃のおかげだよ。君が諦めずに一緒に探してくれたからこそ、この家に出会えたんだ」
悠真は彩乃を抱きしめ、キスをした。
「パパ、ママ、大好き！」
芽衣が二人の間に駆け寄り、ぎゅっと抱きついた。
「私たちも、芽衣が大好きだよ！」
二人は芽衣を抱きしめ、幸せをかみしめた。
予想外のトラブルを乗り越え、二人はついに理想のマイホームを手に入れた。この家は、家族の愛と絆を育む、かけがえのない場所になるだろう。
数年後のある夏の夜、激しい雨が降り続いた。ニュースでは、近隣の河川が氾濫し、多くの家が浸水被害に遭っていると報じられていた。
「悠真、雨すごいね…大丈夫かな…」
彩乃は不安そうに窓の外を見つめていた。
「そうだね…でも、この家は高台にあるし、大丈夫だと思うよ」
悠真は彩乃を安心させようと、優しく言葉をかけた。
しかし、雨は一向に弱まる気配がなく、むしろ激しさを増していく。
「パパ、ママ、怖いよ…」
芽衣は二人の間にしがみつき、震えていた。
「大丈夫だよ、芽衣。パパとママがいるから」
悠真は芽衣を抱きしめ、背中を優しくさすった。
朝になり、雨はようやく止んだ。ニュースでは、広範囲で浸水被害が出ていることが報じられていた。
「悠真、ちょっと様子を見てくる」
悠真は長靴を履き、家の外に出た。
「気をつけてね！」
彩乃は心配そうに悠真を見送った。
しばらくして、悠真が戻ってきた。
「どうだった？」
彩乃は心配そうに尋ねた。
「近所の家はいくつか浸水してるみたいだけど、僕たちの家は無事だったよ」
悠真は安堵の表情を見せた。
「よかった…本当に良かった…」
彩乃は涙を浮かべ、悠真に抱きついた。
「パパ、おうち、大丈夫だった？」
芽衣も安心した様子で、悠真に抱きついた。
「ああ、大丈夫だったよ。芽衣、怖かったね」
悠真は芽衣の頭を撫でた。
「この家、強いね！」
芽衣は笑顔を見せた。
「そうだね。この家を建ててくれた人のおかげだよ」
悠真は空を見上げ、亡き老夫婦に感謝の気持ちを伝えた。
「そうだね…きっと、あのおじいちゃんとおばあちゃんが、私たちを守ってくれてるんだね」
彩乃も空を見上げ、心の中で老夫婦に感謝した。
「おじいちゃん、おばあちゃん、ありがとう！」
芽衣も空に向かって手を振った。
この家は、家族の絆を深め、そして家族を守ってくれる、かけがえのない場所となった。
「悠真、この家を買って本当に良かったね」
彩乃は悠真の手を握りしめ、幸せをかみしめた。
「ああ、そうだね。この家で、これからもずっと一緒に生きていこう」
悠真は彩乃を見つめ、優しく微笑んだ。
おわり
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