第1章 不思議な物件
「もしもし、もしもし!」
受話器の向こうから、妻の千歳(ちとせ)の声が響く。時刻は午後3時。主人公の我妻(あがつま)梵(そよぎ)は、都内のオフィスビルの一室で、パソコンに向かっていた。
「どうしたんだい、千歳?」
梵は35歳。中堅IT企業でシステムエンジニアとして働いている。仕事は忙しいが、やりがいを感じていた。
「あのね、梵。物件、見つけたの!」
千歳の声は弾んでいた。梵は、妻の興奮が伝わってきて、思わず笑みがこぼれた。
「そうかい、それはよかった。どんな物件なんだい?」
梵と千歳は、結婚して5年になる。2人とも30代半ばを迎え、そろそろマイホームが欲しいと考えていた。
「それがね、ちょっと不思議な物件なのよ」
千歳の言葉に、梵は興味をそそられた。
「不思議な物件?」
「うん。ネットでたまたま見つけた古い一軒家なんだけど、写真を見た瞬間、なぜか惹かれるものがあったの」
千歳は、興奮気味に説明を続けた。
「築50年以上の木造家屋で、庭も広くて、駅からも徒歩圏内なの。でも、なぜか相場よりもかなり安い値段で売りに出されているのよ」
「ふむ、それは確かに不思議だね」
梵は、少し考え込んだ。
「でも、千歳が気に入ったのなら、一度見に行ってみようか」
「本当? ありがとう、梵!」
千歳は、喜びの声を上げた。
週末、梵と千歳は、早速その物件を見に行くことにした。物件は、都心から電車で1時間ほどの郊外に位置していた。駅を降りて、閑静な住宅街を歩くこと10分。2人は、目的の一軒家の前にたどり着いた。
「わあ、素敵!」
千歳は、目を輝かせて言った。
木造2階建ての古民家は、緑豊かな庭に囲まれて、静かに佇んでいた。外壁は風雨にさらされて色褪せていたが、どこか風格を感じさせた。
「確かに、いい雰囲気だね」
梵も、その言葉に同意した。
2人は、不動産屋の案内で、家の中を見学した。
「この家は、もともと有名な画家のアトリエだったんですよ」
不動産屋が説明した。
「画家?」
千歳が興味深そうに尋ねた。
「ええ。この家の前の持ち主は、戦後から昭和にかけて活躍した画家で、この家で数多くの作品を生み出したそうです」
「へえ、そうなんですね」
梵は、興味深く話を聞いた。
見学を終えた後、梵と千歳は、近くのカフェに入った。
「どうだった? 千歳」
梵が尋ねた。
「すごく気に入った! 絶対にここに住みたい!」
千歳は、目を輝かせて言った。
「そうか、よかった」
梵は、優しい笑みを浮かべた。
「でも、梵は? どう思った?」
千歳が心配そうに尋ねた。
「僕も、いい物件だと思ったよ。ただ、少し気になることがあるんだ」
梵は、少し考え込んだ後、続けた。
「この家、相場よりもかなり安い値段で売りに出されているよね?」
「うん、そうなの」
千歳は、少し不安そうな表情を浮かべた。
「何か問題があるんじゃないかって、心配なの?」
「いや、そうじゃないんだ。ただ、何か理由があるんじゃないかと思ってね」
梵は、千歳の不安を払拭するように、優しく言った。
「心配しなくても大丈夫だよ。僕が調べてみるから」
数日後、梵は、物件について調べてみた。すると、ある噂を耳にした。
「あの家には、幽霊が出るらしい」
梵は、その噂を聞いて、少し驚いた。しかし、すぐに冷静さを取り戻した。
「幽霊か。まあ、そんなこともあるだろう」
梵は、幽霊の存在を信じてはいなかった。しかし、千歳が心配するかもしれないと思い、そのことは伏せておくことにした。
週末、梵と千歳は、再び物件を見に行った。
「やっぱり、素敵だなあ」
千歳は、うっとりとした表情で言った。
「そうだね」
梵も、同意した。
2人は、庭を散策したり、家の周りを歩いたりして、時間を過ごした。
「ねえ、梵」
千歳が、少し真剣な表情で言った。
「もし、この家に幽霊が出たら、どうする?」
梵は、一瞬驚いたが、すぐに冷静さを装った。
「幽霊? まあ、もし出たら、一緒に仲良く暮らせばいいんじゃないか?」
梵は、冗談めかして言った。
「もう、梵ったら!」
千歳は、笑いながら梵の腕を叩いた。
「でも、もし本当に幽霊が出たら、教えてね?」
千歳は、少し不安そうに言った。
「もちろん、教えるよ」
梵は、優しく千歳の頭を撫でた。
2人は、その後も物件について話し合った。そして、ついに決断を下した。
「この家に、住もう!」
2人は、顔を見合わせて微笑んだ。
こうして、梵と千歳の新しい生活が始まった。果たして、この家には本当に幽霊が出るのか? そして、2人は、この家でどんな日々を送ることになるのか?
物語は、まだ始まったばかりである。
引っ越し当日、梵と千歳は、レンタカーに荷物を積み込み、新居へと向かった。晴天の下、木々の緑が鮮やかに映え、鳥のさえずりが心地よい。
「いよいよだね、梵」
助手席の千歳が、期待に胸を膨らませたように言った。
「ああ、楽しみだな」
梵も、ハンドルを握りながら答えた。
新居に到着すると、2人は荷物を運び込み、早速片付けを始めた。
「この部屋、私のアトリエにする!」
千歳は、2階の陽当たりの良い部屋を見て、目を輝かせた。千歳は、趣味で絵を描いている。
「いいね。僕も、書斎が欲しいな」
梵は、1階の落ち着いた雰囲気の部屋を見て、そう呟いた。梵は、休日に読書をするのが好きだった。
「じゃあ、この部屋は、梵の書斎にしよう」
千歳は、笑顔で言った。
2人は、協力して荷物を運び込み、家具を配置し、部屋を自分たちの好みに飾り付けていった。夕方には、新居はすっかり2人の色に染まっていた。
「ふぅ、疲れたけど、いい感じになったね」
千歳は、ソファに腰を下ろし、満足そうに言った。
「ああ、そうだね」
梵も、隣に座り、千歳の肩を抱いた。
「これから、この家で、どんな思い出を作っていこうか」
千歳は、梵を見つめ、優しく微笑んだ。
「そうだね。きっと、素敵な思い出がたくさんできるよ」
梵も、千歳の瞳を見つめ返し、微笑み返した。
翌日、梵は、いつも通り出社した。
「我妻さん、引っ越しおめでとう」
同僚の田中が、笑顔で声をかけてきた。
「ありがとう、田中さん」
梵は、礼を言った。
「新居はどう? 気に入った?」
田中が尋ねた。
「ええ、とても気に入りました」
梵は、嬉しそうに答えた。
「奥さんも喜んでるでしょ?」
田中がニヤリと笑った。
「ええ、とても喜んでます」
梵も、照れくさそうに笑った。
「ところで、我妻さん、新居はどんな物件なの?」
田中が興味深そうに尋ねた。
「築50年以上の古い一軒家なんです」
梵は、答えた。
「へえ、そうなんだ。古民家って、なんか憧れるよね」
田中は、目を輝かせた。
「ええ、僕もそう思います」
梵は、同意した。
「でも、古民家って、なんか曰く付きの物件とか多いって聞くけど、大丈夫?」
田中が心配そうに尋ねた。
「曰く付き?」
梵は、少し驚いた。
「ええ。幽霊が出るとか、何か不思議な現象が起こるとか」
田中は、少し怖そうに言った。
「ああ、それは大丈夫です。僕たち、幽霊とか信じてないんで」
梵は、笑いながら言った。
「そうなんだ。よかった」
田中は、安堵したように言った。
「でも、もし何かあったら、教えてね」
田中は、念を押すように言った。
「ええ、もちろんです」
梵は、笑顔で答えた。
仕事が終わると、梵は、スーパーに寄り、夕食の食材を買って帰った。
「ただいま」
梵は、玄関を開け、声をかけた。
「おかえりなさい、梵」
千歳が、キッチンから顔を出し、笑顔で迎えた。
「いい匂いだね。何を作ってるの?」
梵は、キッチンに近づき、千歳の肩越しに鍋の中を覗き込んだ。
「今日は、梵の好きなカレーよ」
千歳は、嬉しそうに言った。
「わあ、ありがとう、千歳」
梵は、千歳の頬にキスをした。
2人は、一緒に夕食の準備をした。
「ねえ、梵」
千歳が、少し真剣な表情で言った。
「今日、不動産屋から電話があったの」
「不動産屋?」
梵は、少し驚いた。
「うん。この家の前の持ち主について、教えてくれたの」
千歳は、少し不安そうに言った。
「前の持ち主?」
梵は、興味をそそられた。
「ええ。前の持ち主は、有名な画家だったんだけど、ある日突然、失踪したそうなの」
千歳は、言葉を詰まらせた。
「失踪?」
梵は、驚きのあまり、言葉を失った。
「しかも、その画家が失踪した日から、この家には誰も住んでいなかったそうなの」
千歳は、震える声で言った。
「そんな……」
梵は、信じられない思いで、千歳を見つめた。
「もしかして、この家には、何か秘密があるんじゃないかしら?」
千歳は、不安そうに言った。
「さあ、どうだろうね」
梵は、複雑な表情で答えた。
2人は、沈黙したまま、夕食を食べた。
夜、梵と千歳は、寝室で横になった。
「ねえ、梵」
千歳が、梵の腕の中に抱きつき、小さな声で言った。
「怖いよ」
梵は、千歳を優しく抱きしめ、背中を撫でた。
「大丈夫だよ、千歳。僕が守るから」
梵は、力強く言った。
しかし、梵の心の中にも、不安が広がっていた。この家には、一体どんな秘密が隠されているのか? そして、2人は、この家でこれからどんな日々を送ることになるのか?
第2章 秘密の地下室
翌朝、梵はいつもより早く目を覚ました。昨晩の千歳の言葉が頭から離れない。前の持ち主の失踪、そして誰も住んでいなかった家。一体、この家にはどんな秘密があるのだろうか?
梵は、そっとベッドから抜け出し、書斎へと向かった。書斎の本棚には、古今東西のミステリー小説が並んでいる。梵は、ミステリー小説を読むのが好きで、これまで数多くの事件や謎解きを読んできた。
「もしかしたら、この家にも、何か謎が隠されているのかもしれない」
梵は、そんなことを考えながら、書斎の窓から庭を眺めた。すると、庭の一角にある古い井戸が目に留まった。
「あの井戸は、何だろう?」
梵は、興味をそそられ、庭へと降りていった。
井戸は、石で囲まれており、苔むした蓋がされていた。梵は、蓋をそっと持ち上げ、中を覗き込んだ。すると、井戸の底には、暗闇が広がっていた。
「これは……」
梵は、何かを感じ、井戸の周りを調べ始めた。すると、井戸の脇に、古びた鍵が落ちているのを発見した。
「この鍵は、何の鍵だろう?」
梵は、鍵を手に取り、家の中へと戻った。
「梵、どうしたの? 朝早くから」
千歳が、心配そうに尋ねた。
「ああ、ちょっと気になることがあってね」
梵は、鍵を見せながら言った。
「この鍵、何の鍵だと思う?」
「さあ、分からないけど、古い鍵みたいね」
千歳は、首を傾げた。
「僕もそう思う。でも、この鍵、どこかで見たことがあるような気がするんだ」
梵は、記憶を辿ろうとした。
「どこで?」
千歳が尋ねた。
「それが、思い出せないんだ」
梵は、歯痒そうに言った。
「もしかして、この家のどこかにある鍵じゃないかしら?」
千歳が提案した。
「そうかもしれないね」
梵は、家の中を探索することにした。
2人は、家の中をくまなく探したが、鍵に合う鍵穴は見つからなかった。
「どこにもないね」
千歳は、がっかりした様子で言った。
「諦めるのはまだ早いよ」
梵は、諦めずに探索を続けた。
すると、書斎の床に、小さな傷があるのを発見した。梵は、傷を指でなぞってみた。
「これは……」
梵は、何かを確信したように、床板を力強く押した。すると、床板が音を立てて動き、隠し扉が現れた。
「隠し扉!?」
千歳は、驚きの声を上げた。
梵は、隠し扉を開け、中へと入った。すると、そこには、地下室へと続く階段があった。
「地下室があるなんて、聞いてないわよ!」
千歳は、興奮気味に言った。
梵と千歳は、地下室へと降りていった。地下室は、薄暗く、湿った空気が漂っていた。
「なんか、怖いね」
千歳は、梵の腕にしがみついた。
「大丈夫だよ、千歳」
梵は、千歳を優しく抱きしめた。
2人は、地下室の中を探索した。すると、地下室の奥に、古い木箱があるのを発見した。
「この木箱、何が入ってるんだろう?」
千歳が尋ねた。
梵は、木箱に近づき、蓋を開けた。すると、中には、古い絵画やスケッチブック、そして日記帳が入っていた。
「これは……」
梵は、絵画を手に取り、まじまじと見つめた。
「この絵、どこかで見たことがあるような……」
千歳も、絵画を見て、呟いた。
「そうだ。この絵は、前の持ち主の画家の作品だ!」
梵は、興奮気味に言った。
2人は、絵画やスケッチブック、日記帳を一つ一つ丁寧に見ていった。すると、日記帳の中に、ある記述を見つけた。
「この家には、秘密がある。いつか、誰かがこの秘密を見つけてくれることを願う」
「秘密?」
千歳が尋ねた。
「ああ、この家には、まだ何か秘密が隠されているんだ」
梵は、決意を新たにしたように言った。
2人は、地下室を後にし、再び家の中を探索した。すると、書斎の本棚の裏に、隠し部屋があるのを発見した。
「また隠し部屋!?」
千歳は、驚きの声を上げた。
梵は、隠し部屋の中へと入った。すると、そこには、前の持ち主の画家が描いたと思われる、巨大な壁画があった。
「すごい……」
千歳は、息を呑んだ。
壁画には、この家の歴史や、前の持ち主の画家の生涯が描かれていた。そして、壁画の最後には、あるメッセージが残されていた。
「この家の秘密は、まだ終わっていない」
梵と千歳は、壁画を見つめ、言葉を失った。
この家には、一体どんな秘密が隠されているのか? そして、前の持ち主の画家は、なぜ失踪したのか?
物語は、新たな謎へと繋がっていく。
第3章 画家の真実
梵は、壁画のメッセージを何度も読み返した。
「この家の秘密は、まだ終わっていない」
一体、この言葉は何を意味しているのだろうか? 梵は、謎を解き明かす決意を固めた。
翌日、梵は有給休暇を取り、図書館へと向かった。図書館の司書に、前の持ち主の画家について尋ねると、司書は快く資料を探してくれた。
「我妻梵さんですね? 前の持ち主の画家についてですね。こちらに、画家の作品集と、彼に関する記事がいくつかあります」
司書は、数冊の本と雑誌を梵に手渡した。
梵は、資料を読み漁った。画家の作品は、風景画や静物画が多く、どれも繊細で美しいタッチで描かれていた。しかし、画家の生涯については、ほとんど情報がなかった。
「謎が多い画家だな」
梵は、呟いた。
図書館での調査を終えた梵は、次に美術館へと向かった。美術館には、前の持ち主の画家の作品が数点展示されていた。
梵は、作品を一つ一つじっくりと鑑賞した。すると、ある絵画の前で、足を止めた。
「この絵は……」
それは、地下室で発見した絵画とよく似た風景画だった。しかし、美術館の絵画には、地下室の絵画にはなかったものが描かれていた。
「これは、もしかして……」
梵は、絵画に描かれている風景に見覚えがあった。それは、この家の裏山にある小さな湖だった。
「もしかしたら、この湖に何か秘密があるのかもしれない」
梵は、そう確信し、美術館を後にした。
帰宅後、梵は千歳に、図書館と美術館での調査結果を報告した。
「裏山にある湖?」
千歳は、驚いた様子で言った。
「ああ、そうなんだ。あの絵画に描かれている風景は、間違いなくあの湖だ」
梵は、真剣な表情で言った。
「でも、あの湖に一体何があるっていうの?」
千歳が尋ねた。
「それは、まだ分からない。でも、何かあると僕は確信している」
梵は、決意を込めて言った。
翌日、梵と千歳は、裏山へと向かった。湖までは、徒歩で30分ほどかかる。
「ねえ、梵。本当に何かあると思う?」
千歳が、少し不安そうに尋ねた。
「ああ、きっとあるさ」
梵は、力強く答えた。
2人は、山道を登り、湖へとたどり着いた。湖は、静かで、水面が鏡のように周囲の景色を映し出していた。
「綺麗だね」
千歳は、湖の美しさに見惚れた。
「ああ、そうだね」
梵も、同意した。
2人は、湖の周りを散策した。すると、湖畔に、小さな祠があるのを発見した。
「祠?」
千歳が尋ねた。
「ああ、これは……」
梵は、祠に近づき、中を覗き込んだ。すると、中には、小さな石像が安置されていた。
「これは、もしかして……」
梵は、石像に見覚えがあった。それは、地下室で発見した日記帳の中に描かれていた石像だった。
「この石像は、一体何を意味するんだろう?」
千歳が尋ねた。
「さあ、分からない。でも、きっと何か重要な意味があるはずだ」
梵は、石像を手に取り、まじまじと見つめた。
すると、石像の底に、小さな文字が刻まれているのを発見した。
「これは……」
梵は、文字を解読しようと試みた。
「なんて書いてあるの?」
千歳が尋ねた。
「『鍵は、光の中にある』」
梵は、解読した文字を読み上げた。
「鍵? 光の中?」
千歳は、首を傾げた。
「一体、どういう意味だろう?」
梵は、考え込んだ。
2人は、祠を後にし、再び湖の周りを散策した。すると、湖の対岸に、洞窟があるのを発見した。
「洞窟?」
千歳が尋ねた。
「ああ、もしかしたら、この洞窟の中に何かあるのかもしれない」
梵は、洞窟へと向かった。
洞窟の中は、暗く、湿っていた。梵は、懐中電灯で足元を照らしながら、奥へと進んでいった。
すると、洞窟の奥に、光が差し込んでいる場所があった。
「光だ!」
千歳が叫んだ。
梵は、光の方へと近づいた。すると、そこには、水晶のようなものが埋め込まれた壁があった。
「これが、『光の中』ということか」
梵は、水晶に触れた。すると、水晶が光り輝き、壁が開いた。
壁の奥には、小さな部屋があった。部屋の中央には、古い机が置かれており、机の上には、一冊の本が置かれていた。
梵は、本を手に取り、ページをめくった。すると、そこには、前の持ち主の画家の生涯と、この家に隠された秘密が記されていた。
画家は、この家で、ある秘密の実験を行っていた。それは、人間の意識を絵画の中に閉じ込めるという、禁断の実験だった。
画家は、実験の末、自分の意識を絵画の中に閉じ込めることに成功した。しかし、その代償として、画家は肉体を失い、絵画の中に永遠に閉じ込められてしまった。
「そんな……」
千歳は、信じられない思いで、梵を見つめた。
「これが、この家の秘密だったんだ」
梵は、静かに言った。
すると、突然、部屋の奥から、声が聞こえてきた。
「やっと、見つけてくれたね」
それは、前の持ち主の画家の声だった。
「誰だ!?」
梵は、驚きと恐怖で身構えた。千歳も、梵の腕にしがみつき、震えていた。
「怖がらなくてもいい。私は、君たちに危害を加えるつもりはない」
声は、穏やかで、どこか寂しげだった。
「あなたは、一体誰なんです?」
梵は、勇気を振り絞って尋ねた。
「私は、この絵を描いた画家だ」
声は、そう答えた。
「画家? じゃあ、あなたは……」
梵は、言葉を詰まらせた。
「ああ、私は、この絵の中に閉じ込められている」
画家の声は、静かに告げた。
「絵の中に閉じ込められている?」
千歳は、信じられない思いで、壁画を見つめた。
「ああ、私は、禁断の実験の末、自分の意識をこの絵の中に閉じ込めてしまった。そして、肉体を失い、この絵の中に永遠に囚われることになった」
画家の声は、悲しげに語った。
「そんな……」
千歳は、涙を浮かべた。
「でも、なぜ私たちに話しかけてきたんですか?」
梵は、尋ねた。
「君たちが、この家の秘密を見つけてくれたからだ。そして、君たちなら、私を救い出してくれるかもしれないと思ったからだ」
画家の声は、希望に満ちていた。
「私たちが、あなたを救い出す?」
梵は、戸惑った。
「ああ、君たちにしかできないことがある」
画家の声は、真剣に告げた。
「それは、何ですか?」
梵は、尋ねた。
「私を、この絵から解放してほしい」
画家の声は、懇願するように言った。
「でも、どうやって?」
千歳が尋ねた。
「この本の最後のページに、方法が書いてある」
画家の声は、そう言って、言葉を切った。
梵は、急いで本の最後のページをめくった。そこには、こう書かれていた。
「絵画に閉じ込められた魂を解放するには、絵画に描かれた風景と同じ場所で、同じ時刻に、同じ光を当てる必要がある」
「同じ風景、同じ時刻、同じ光……」
梵は、呟いた。
「つまり、この絵に描かれている湖で、同じ時刻に、同じ光を当てればいいってことね」
千歳は、理解したように言った。
「ああ、そうみたいだ」
梵は、頷いた。
「でも、同じ光って、どうやって?」
千歳が尋ねた。
「さあ、分からない。でも、きっと何か方法があるはずだ」
梵は、諦めずに言った。
2人は、洞窟を出て、湖畔に戻った。
「ねえ、梵。あの絵に描かれている時刻って、いつ?」
千歳が尋ねた。
梵は、絵画を思い出し、答えた。
「確か、夕暮れ時だったと思う」
「じゃあ、あと数時間しかないわね」
千歳は、焦った様子で言った。
「ああ、急がないと」
梵は、千歳の腕を取り、走り出した。
2人は、急いで山を下り、家に戻った。そして、地下室から絵画を持ち出し、湖畔へと戻った。
「あと少しで、夕暮れ時ね」
千歳は、空を見上げ、言った。
「ああ、間に合った」
梵は、絵画を湖畔に立てかけ、太陽の光が絵画に当たるように角度を調整した。
すると、絵画が光り輝き、画家の声が聞こえてきた。
「ありがとう、君たちのおかげで、私は解放された」
声は、喜びに満ちていた。
次の瞬間、絵画から光が放たれ、画家の姿が現れた。画家は、穏やかな笑みを浮かべ、2人に感謝の言葉を述べた。
「君たちのおかげで、私は長い間囚われていた絵画から解放された。本当にありがとう」
「どういたしまして」
梵と千歳は、安堵の表情で微笑んだ。
画家は、2人に別れを告げ、光の中に消えていった。
「これで、この家の秘密は、全て解き明かされたんだね」
千歳は、感慨深げに言った。
「ああ、そうだね」
梵も、頷いた。
しかし、2人は、まだ知らない。
この家の秘密は、まだ終わっていないことを。
そして、新たな謎が、2人を待ち受けていることを。
第4章 謎の訪問者
画家の魂が解放された後、梵と千歳は、安堵感と達成感に包まれた。長年、この家に隠されていた秘密が、ついに解き明かされたのだ。
「これで、この家も安心して住めるね」
千歳は、梵の腕に抱きつき、嬉しそうに言った。
「ああ、そうだな」
梵も、千歳の頭を優しく撫でた。
しかし、2人の安堵感は、長くは続かなかった。
数日後、梵と千歳は、玄関のチャイムの音で目を覚ました。
「誰だろう? 朝早くから」
千歳は、寝ぼけ眼で言った。
梵は、玄関に向かい、ドアを開けた。
「おはようございます。我妻梵さん、我妻千歳さんですね?」
そこに立っていたのは、見知らぬ女性だった。女性は、30代前半くらいで、黒髪をショートカットにし、黒いスーツを着ていた。
「はい、そうですが……」
梵は、警戒しながら答えた。
「私は、警視庁捜査一課の霧島(きりしま)と申します」
女性は、警察手帳を見せながら言った。
「警察?」
千歳は、驚いて、梵の後ろに隠れた。
「何か、ご用でしょうか?」
梵は、冷静さを装って尋ねた。
「実は、我妻さんの家の前の持ち主である画家の方について、少しお話を伺いたいのですが」
霧島は、真剣な表情で言った。
「画家の方について?」
梵は、少し戸惑った。
「はい。画家の方は、失踪されたと聞いていますが、何かご存知ないでしょうか?」
霧島は、鋭い視線で梵を見つめた。
「いえ、私たちも最近引っ越してきたばかりで、何も知りません」
梵は、嘘をついた。
「そうですか」
霧島は、少し残念そうに言った。
「もし、何か思い出したことがあれば、ご連絡ください」
霧島は、名刺を差し出し、玄関を後にした。
「警察が来るなんて、一体何があったんだろう?」
千歳は、不安そうに言った。
「さあ、分からないけど、何か不穏な感じがするな」
梵は、眉間に皺を寄せた。
数日後、梵は、仕事から帰宅すると、千歳がいないことに気づいた。
「千歳? 千歳!」
梵は、家の中を捜したが、千歳はどこにもいなかった。
「まさか……」
梵は、嫌な予感がした。
梵は、急いで警察に連絡した。
「もしもし、警察ですか? 妻が失踪しました!」
梵は、必死に訴えた。
警察は、すぐに捜査を開始した。しかし、千歳の行方は、一向に掴めなかった。
数週間後、梵は、仕事に身が入らず、憔悴しきっていた。
「千歳、どこに行ってしまったんだ……」
梵は、毎晩のように、千歳のことを思い、涙を流した。
ある日、梵は、自宅の郵便受けに、一通の手紙が入っているのを見つけた。差出人は不明だった。
梵は、手紙を開封し、中身を読んだ。
「我妻梵様
私は、あなたの妻、千歳を預かっています。彼女に会いたければ、明日、夜の12時に、裏山にある湖畔に来てください。
ただし、一人で来ること。警察に通報すれば、千歳の命はありません。
謎の訪問者」
手紙を読み終えた梵は、怒りと恐怖で震えた。
「千歳を返せ!」
梵は、手紙を握りしめ、叫んだ。
梵は、一晩中悩み続けた。警察に連絡すべきか、それとも手紙の指示に従うべきか。しかし、千歳の命がかかっている以上、後者を選ぶしかなかった。
「千歳、必ず助け出すからな」
梵は、決意を固め、翌日の夜、裏山へと向かった。
夜の山道は、昼間とは全く違う顔を見せる。木々の影が不気味に揺れ、風の音が耳元で囁く。梵は、懐中電灯の光を頼りに、一歩一歩足を進めた。
湖畔に到着すると、そこには、人影が一つ立っていた。
「あなたが、謎の訪問者ですか?」
梵は、緊張した声で尋ねた。
人影は、ゆっくりと振り返った。それは、霧島だった。
「霧島さん? なぜ、あなたがここに?」
梵は、驚きのあまり、言葉を失った。
「我妻さん、驚かせてすみません」
霧島は、申し訳なさそうに言った。
「でも、なぜあなたがここに?」
梵は、再び尋ねた。
「実は、私は、警察官であると同時に、ある組織の一員でもあるんです」
霧島は、意味深な言葉を口にした。
「組織?」
梵は、ますます混乱した。
「ええ、その組織は、この家と、前の持ち主の画家に関する秘密を調査しているんです」
霧島は、説明を始めた。
「秘密?」
梵は、興味をそそられた。
「ええ。前の持ち主の画家は、実は、ある秘密結社の一員だったんです」
霧島は、言葉を続けた。
「秘密結社?」
梵は、驚きのあまり、目を見開いた。
「ええ。その秘密結社は、古くからこの地に存在し、様々な超常現象に関わっていたんです」
霧島は、説明を続けた。
「超常現象?」
梵は、信じられない思いで、霧島を見つめた。
「ええ。例えば、テレパシーやサイコキネシス、予知能力などです」
霧島は、淡々と説明した。
「そんな……」
梵は、言葉を失った。
「そして、前の持ち主の画家は、その秘密結社の中でも、特に優れた能力を持っていたんです」
霧島は、言葉を続けた。
「画家は、絵画を通して、人の心を操ったり、未来を予知したりすることができたんです」
「そんなことができるんですか?」
梵は、半信半疑で尋ねた。
「ええ、実際に、画家は、自分の絵画を使って、多くの人々を操り、自分の目的を達成しようとしたんです」
霧島は、真剣な表情で言った。
「目的?」
梵は、尋ねた。
「ええ。画家の目的は、この世界を自分の理想郷に変えることでした」
霧島は、言葉を続けた。
「画家は、自分の絵画を使って、人々の心を操り、戦争や紛争を起こそうとしたんです」
「そんな……」
梵は、言葉を失った。
「しかし、画家の計画は、失敗に終わりました」
霧島は、言葉を続けた。
「画家の絵画は、ある人物によって封印され、画家自身も、絵画の中に閉じ込められてしまったんです」
「その人物とは?」
梵は、尋ねた。
「それは、私です」
霧島は、静かに答えた。
「あなた?」
梵は、驚きのあまり、目を見開いた。
「ええ、私は、画家の計画を阻止するために、彼と戦ったんです」
霧島は、言葉を続けた。
「そして、彼の絵画を封印し、彼自身を絵画の中に閉じ込めることに成功したんです」
「でも、なぜあなたは、警察官になったんですか?」
梵は、尋ねた。
「それは、画家の残党が、まだこの世に存在するからです」
霧島は、真剣な表情で言った。
「画家の残党?」
梵は、尋ねた。
「ええ。彼らは、画家の封印を解き、彼の計画を再び実行しようとしているんです」
霧島は、言葉を続けた。
「そして、私は、彼らを阻止するために、警察官になったんです」
「そんな……」
梵は、言葉を失った。
「我妻さん、あなたも、この戦いに加わってくれませんか?」
霧島は、梵に手を差し伸べた。
「はい、喜んで」
梵は、霧島の手を握り返した。
こうして、梵は、霧島と共に、画家の残党との戦いに身を投じることになった。
しかし、梵は、まだ知らない。
この戦いが、想像を絶する過酷なものであることを。
そして、この戦いの裏には、さらに大きな秘密が隠されていることを。
第5章 湖畔の対峙
梵は、一睡もできないまま、夜を迎えた。時刻は、午後11時。梵は、黒いパーカーを羽織り、裏山へと向かった。
「千歳、必ず助け出すからな」
梵は、心の中で誓った。
裏山は、闇に包まれ、不気味な静けさが漂っていた。梵は、懐中電灯の明かりを頼りに、山道を登った。
「あと少しだ」
梵は、息を切らしながら、湖畔へとたどり着いた。
湖畔には、人影があった。それは、手紙の差出人である、謎の訪問者だった。
「よく来たな、我妻梵」
訪問者は、フードを深く被り、顔を隠していた。
「千歳はどこだ?」
梵は、怒りを抑えながら、尋ねた。
「焦るな。約束通り、一人で来たようだな」
訪問者は、ゆっくりと近づいてきた。
「千歳を返せ!」
梵は、叫んだ。
「そうだな。約束は守らなければならない」
訪問者は、そう言って、フードを取った。
「お前は……」
梵は、驚きのあまり、言葉を失った。
そこに立っていたのは、なんと、前の持ち主の画家だった。
「なぜ、あなたがここに?」
梵は、混乱した。
「私は、まだこの世に未練があった。そして、君たちを利用して、この世に戻ってきたのだ」
画家は、不敵な笑みを浮かべた。
「利用する? 一体、どういうことだ?」
梵は、理解できなかった。
「私は、君たちに、私の絵画に閉じ込められた魂を解放させた。そして、その隙に、君たちの体に憑依したのだ」
画家は、悪びれる様子もなく、言った。
「憑依?」
梵は、さらに混乱した。
「ああ、私は今、君たちの体の中にいる。そして、君たちの体を自由に操ることができる」
画家は、そう言って、梵の体を操り始めた。
梵は、自分の体が勝手に動くことに、恐怖を感じた。
「やめろ! 私の体を返せ!」
梵は、心の中で叫んだ。
しかし、画家の力は強く、梵は抵抗できなかった。
「もう遅い。君たちの体は、もう私のものだ」
画家は、高笑いした。
その時、千歳が現れた。
「梵!」
千歳は、梵の名前を叫び、画家に向かって走ってきた。
「千歳、危ない!」
梵は、心の中で叫んだが、体は動かなかった。
画家は、千歳を捕まえ、湖に突き落とした。
「千歳!」
梵は、絶叫した。
千歳は、湖に沈んでいった。
「これで、邪魔者は消えた」
画家は、満足そうに言った。
梵は、怒りと悲しみで、全身が震えた。
「許さない! 絶対に許さない!」
梵は、心の中で叫び続けた。
すると、突然、梵の体から、光が放たれた。
「何だ!?」
画家は、驚きの声を上げた。
光は、どんどん強くなり、梵の体を包み込んだ。
「これは……」
画家は、何が起こっているのか理解できなかった。
次の瞬間、光が爆発し、梵と画家の体が、湖の上に浮かび上がった。
梵は、意識を取り戻し、湖から這い上がった。
「千歳!」
梵は、千歳を探した。
すると、千歳が、湖畔で倒れているのを発見した。
「千歳! 大丈夫か?」
梵は、千歳を抱き起こした。
千歳は、目を覚まし、梵を見つめた。
「梵……」
千歳は、安堵の涙を流した。
「よかった、無事だったんだ」
梵は、千歳を抱きしめた。
画家は、光の中に消えていった。
「これで、本当に終わったんだな」
梵は、千歳を見つめ、優しく微笑んだ。
「ああ、終わったんだ」
千歳も、梵を見つめ返し、微笑み返した。
2人は、手を取り合い、家路についた。
第6章 絶体絶命のピンチ
画家との一件から数週間が経ち、梵と千歳の生活は徐々に落ち着きを取り戻していた。しかし、2人の心には、拭いきれない不安が残っていた。
「あの画家は、本当に消えてしまったのだろうか?」
ある夜、千歳は、梵にそう尋ねた。2人は、暖炉の火を眺めながら、ソファに並んで座っていた。
「さあ、どうだろうね。でも、もう二度と現れないことを願うよ」
梵は、千歳の肩を抱き寄せ、優しく答えた。
しかし、梵の心には、画家の言葉が引っかかっていた。
「この家の秘密は、まだ全てが解き明かされたわけではない」
一体、この言葉は何を意味するのか? 梵は、その謎を解き明かすまでは、安心して暮らすことはできないと感じていた。
そんなある日、梵は、仕事中に奇妙なメールを受け取った。差出人は不明で、件名は「警告」だった。
「我妻梵様
このメールを読んでいるということは、あなたはまだ生きているようですね。
しかし、あなたの命は、風前の灯火です。
この家の秘密を知った者は、必ず呪われる。
あなたも、もうすぐ死ぬでしょう。
覚悟しておいてください。
謎の差出人」
梵は、メールを読み終え、背筋が凍る思いがした。
「呪い?」
梵は、心の中で呟いた。
「まさか、あの画家の呪いなのか?」
梵は、不安に駆られながらも、冷静さを保とうとした。
「まずは、千歳に知らせなければ」
梵は、すぐに千歳に電話をかけた。
「千歳、今どこだ?」
梵は、焦る気持ちを抑えながら、尋ねた。
「会社だよ。どうしたの? 梵、何かあった?」
千歳の声は、いつも通り落ち着いていた。
「実は……」
梵は、メールの内容を千歳に伝えた。
「呪い? そんなバカな……」
千歳は、信じられない様子だった。
「でも、あの画家は、確かに不気味なことを言っていたわ」
千歳は、不安そうに言った。
「ああ、そうだね。だから、用心しておいた方がいい」
梵は、千歳に注意を促した。
「分かったわ。私も気を付ける」
千歳は、そう言って電話を切った。
梵は、仕事が終わると、急いで帰宅した。
「千歳、無事か?」
梵は、玄関を開け、千歳に駆け寄った。
「大丈夫よ、梵」
千歳は、笑顔で梵を迎えた。
「よかった」
梵は、安堵の息をついた。
しかし、2人の安堵感は、長くは続かなかった。
その夜、2人が夕食を食べていると、突然、停電が起こった。
「停電?」
千歳は、驚いて、ろうそくを灯した。
「何が起こったんだ?」
梵は、窓の外を覗き込んだが、辺りは真っ暗闇だった。
その時、玄関のドアが、ゆっくりと開いた。
「誰だ?」
梵は、身構えた。
しかし、そこには誰もいなかった。
「気のせいかな?」
梵は、首を傾げた。
その時、背後から、不気味な声が聞こえた。
「我妻梵、我妻千歳、覚悟はいいか?」
それは、画家の声だった。
「画家!?」
梵と千歳は、同時に叫んだ。
次の瞬間、2人は、何者かに後ろから襲われ、意識を失った。
目が覚めると、2人は、地下室に閉じ込められていた。
「ここは……」
千歳は、周りを見回し、怯えた声で言った。
「地下室だ」
梵は、冷静に答えた。
「どうして、私たちがここに?」
千歳は、パニックになりかけた。
「落ち着け、千歳。きっと、あの画家が仕組んだことだ」
梵は、千歳を落ち着かせようとした。
「でも、どうやってここから出るんだ?」
千歳は、不安そうに言った。
「さあ、分からない。でも、諦めるわけにはいかない」
梵は、決意を込めて言った。
2人は、地下室の中を調べ始めた。しかし、出口は見つからなかった。
「どうしよう、梵」
千歳は、泣きそうな声で言った。
「大丈夫だ、千歳。必ずここから脱出する」
梵は、千歳を抱きしめ、力強く言った。
その時、地下室の奥から、不気味な笑い声が聞こえてきた。
「我妻梵、我妻千歳、お前たちの命は、もう終わりだ」
それは、画家の声だった。
梵と千歳は、絶体絶命のピンチに陥った。
最終章 奇跡の大逆転
地下室の暗闇の中、梵と千歳は恐怖に震えていた。画家の不気味な笑い声が、地下室全体に響き渡る。
「梵、どうしよう……」
千歳は、梵の腕にしがみつき、涙声で訴えた。
「大丈夫だ、千歳。諦めるな」
梵は、千歳を力強く抱きしめ、勇気づけた。
しかし、梵の心の中にも、絶望感が広がっていた。地下室には、窓もなければ、出口も見当たらない。
「一体、どうやってここから出ればいいんだ……」
梵は、途方に暮れた。
その時、梵の目に、地下室の壁に飾られた絵画が飛び込んできた。それは、前の持ち主の画家が描いた自画像だった。
「この絵……」
梵は、絵画に近づき、じっと見つめた。
すると、絵画の中の画家の目が、不気味に光り始めた。
「何だ!?」
梵は、驚いて後ずさりした。
次の瞬間、絵画から、黒い煙が噴き出した。
「きゃあ!」
千歳は、悲鳴を上げた。
黒い煙は、みるみるうちに地下室全体を覆い尽くした。
「梵、苦しい……」
千歳は、息苦しそうに言った。
「千歳、しっかりしろ!」
梵は、千歳を抱き寄せ、黒い煙から逃れようとした。
しかし、黒い煙は、ますます濃くなり、2人の視界を奪った。
「もうダメだ……」
梵は、意識が朦朧としてきた。
その時、梵の脳裏に、ある言葉が浮かんだ。
「鍵は、光の中にある」
それは、石像に刻まれていた言葉だった。
「光……」
梵は、最後の力を振り絞り、懐中電灯を取り出した。そして、闇雲に光を放った。
すると、黒い煙が、光に反応して、渦を巻き始めた。
「これは……」
梵は、驚きのあまり、言葉を失った。
黒い煙は、光に向かって集まり、やがて一つの球体となった。
そして、球体は、光を放ちながら、天井へと吸い込まれていった。
「終わったのか?」
梵は、安堵の息をついた。
地下室には、再び静けさが戻った。
「梵、大丈夫?」
千歳が、梵に寄り添い、心配そうに尋ねた。
「ああ、大丈夫だ」
梵は、千歳を抱きしめ、安堵した。
2人は、地下室を出て、家の中に戻った。
「一体、何が起こったんだろう?」
千歳は、まだ何が起こったのか理解できていなかった。
「さあ、分からない。でも、あの黒い煙は、画家の怨念だったのかもしれない」
梵は、そう推測した。
「怨念?」
千歳は、恐怖で震えた。
「でも、もう大丈夫だ。画家は、成仏したんだ」
梵は、千歳を安心させようとした。
翌日、梵は、警察に連絡し、昨晩の出来事を説明した。警察は、すぐに捜査を開始したが、黒い煙の正体は分からなかった。
「我妻さん、もしかしたら、あの家は、何か曰く付きなのかもしれませんね」
担当の刑事は、そう言って、梵に忠告した。
「そうかもしれませんね」
梵は、複雑な表情で答えた。
梵は、千歳と相談し、この家を出ていくことに決めた。2人は、荷物をまとめ、新居探しを始めた。
数日後、2人は、新しい家を見つけた。それは、海が見える高台にある、白い一軒家だった。
「ここなら、安心して暮らせるね」
千歳は、笑顔で言った。
「ああ、そうだね」
梵も、笑顔で答えた。
2人は、新居に引っ越し、新たな生活を始めた。
梵は、IT企業で働きながら、趣味の小説執筆を再開した。千歳は、アトリエで絵を描きながら、近所の子供たちに絵を教えていた。
2人は、穏やかで幸せな日々を送っていた。
しかし、ある日、梵は、新聞である記事を見つけた。
それは、この家の前の持ち主である画家の作品が、高額で落札されたという記事だった。
「あの画家の作品が、まだ残っていたのか……」
梵は、驚いた。
そして、記事には、こう書かれていた。
「画家の作品には、不思議な力があると噂されている」
梵は、その言葉を読み、胸騒ぎを覚えた。
「もしかしたら、あの家の秘密は、まだ終わっていないのかもしれない」
梵は、そう呟いた。
終わり。
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